分子ロボット倫理シンポジウム:分子ロボット創薬への期待と現実とのギャップの解消に向けて
日時:2024年10月28日(月)13:00-17:00
場所:タワーホール船堀5F 小ホール
費用:無料(どなたでも参加できます)
オンライン開催:なし
事前参加登録: こちらから申し込みください
モデレーター: 小長谷 明彦(CBI研究機構先端領域ELSI研究所・所長 / 恵泉女学園大学客員教授 / 株式会社分子ロボット総合研究所・代表取締役 / 東京工業大学名誉教授)
開催趣旨
DNAやタンパク質などの生体分子を組み合わせて、感覚と知能と運動機能を持つ人工物を創生する研究は「分子ロボット」と呼ばれており、日本を中心に新たなる研究領域として注目を集めている。分子ロボットはその出自から生体との相性がよく、医薬品分野への応用が期待されている。しかしながら、現状では分子ロボットの医薬品応用研究は十分進んでいるとは言い難い。本シンポジウムでは分子ロボットへの期待と現実とのギャップに焦点を当て、ギャップを超えるために何をすべきかについて、分子ロボット研究者と医療系倫理・医事法研究者を交えて議論したい。
プログラム(案):
13:00-13:30 開会式・基調講演 小長谷明彦(CBI研究機構先端領域ELSI研究所・所長)「分子ロボットの医薬品応用への期待と現実」
基礎研究で注目された革新的技術が必ずしも社会実装につながらないことはしばしば目にすることである。ビジネスコンサルティング分野では、研究⇒開発⇒事業化⇒産業化の間にはそれぞれ魔の川、死の谷、ダーウィンの海という3つの壁があるという。分子ロボットが魔の川を渡るには何が求められているのか、まずはそこから議論したい。
13:30-13:50 河原直人(九州大学病院ARO次世代医療センター・特任講師)「分子ロボット倫理の取組みと社会共創に係る展望」
演者は、2017年より有志らとともに分子ロボット技術倫理綱領を策定するなど、その多岐に及ぶ応用可能性を見据えたELSI関連の活動に従事してきた。2022年からは、分子ロボット分野に関心を抱く医師・医学系研究者らを中心としたWGが発足し、分子ロボット研究者らとの対話の場も形成された。このように、先端科学技術分野の進展に伴走するかたちで、一貫して倫理的対応のあり方を考え、実践に活かそうとする試みは重要なものと考えられる。近年では「社会共創」という概念も注視され、PPI (研究への患者・市民参画) とともにそのあり方が随所で議論されている。分子ロボット分野においても、医療AIやナノ医療に係る技術の進展、DDS、抗体医薬、ワクチン等、将来的な医療応用に係る実務上の諸課題とともに、倫理・社会共創のあり方を考えていくことが今後一層重要となろう。
13:50-14:10 豊田太郎(東京大学大学院総合文化研究科・准教授)「ジャイアントベシクルを用いた医療支援ツールの開発」
脂質二分子膜で構成される細胞サイズの人工小胞体はジャイアントベシクルとよばれ、細胞膜と同様の構造と大きさをもつことから細胞モデルとして注目されている。近年、細胞機能をジャイアントベシクルに導入することで、医療に役立てようとする研究が活発である。本発表では、私が所属する研究グループの取り組み、ジャイアントベシクルを用いた薬剤スクリーニング用化学チップ、ならびに、腹腔鏡手術支援組織マーカー、について紹介する。
14:10-14:30 池田将(岐阜大学工学部化学•生命工学科・教授)
「グルコサミン誘導体型分子からなるインジェクタブルゲルの開発」
アブストラクト:水を媒体とするゼリー状物質であるゲルは、生体と馴染みやすく医療応用が期待されている。我々の研究グループでは、天然に豊富に存在するグルコサミンを誘導化した分子を設計•合成し、水中で自己集合させることでゲルが得られることを明らかにした。講演では、得られたゲルの応力応答性を利用したインジェクタブルゲルとしての医療応用の可能性を紹介する。
14:30-14:50 浜田省吾(東京工業大学情報理工学院・テニュアトラック助教)
「スライム型分子ロボットとその医療応用への展望」
DNAを素材とした構造作成手法の中でも、その高分子としての特性を活かした「DNAハイドロゲル」は、配列設計を駆使することでナノスケールでの構造や機能を制御しながら、簡便にバルクスケールの材料を形成する点で注目を集めている。私たちは特に、酵素反応を利用して「成長する」DNAゲルに着目し、この材料を基盤に、自律的に成長し駆動するスライム型分子ロボットを作製した。本発表では、このロボットの概要と、その転用によって広がりつつある医療分野への応用展望について紹介する。
14:50-15:00 休憩
15:00-15:20 松下琢(崇城大学生物生命学部・教授)
「正常細胞とがん細胞の細胞膜の性質を自身で見分ける新規脂質ナノ粒子制がん剤」
がん治療の抱える大きな問題の一つは、制がん剤 による重篤な副作用である。本学の上岡・松本名誉教授は、脂質分子とミセル分子の二成分を一定の組成で混ぜ合わせ、超音波照射するだけで作製できる新規脂質ナノ粒子(ハイブリッドリポソーム:HL)を開発した。HLは直径が100nm以下の単分散で、調製後1か月以上安定である。また、このHLは、自身の性質で、正常細胞とがん細胞の細胞膜の物理化学的性質を識別し、がん細胞に、より特異的に融合蓄積してアポトーシス細胞死を引き起こすため、正常細胞への影響(副作用)が少ないことが期待される。
15:20-15:40 神谷厚輝(群馬大学大学院理工学府分子科学部門・助教)
「分子集積による外部刺激に応答する生体分子ロボットの構築」
古くから人工細胞膜のリポソームに様々な生体分子を再構成し、その生体分子の機能解析研究が行われてきた。無細胞タンパク質発現系等の周辺技術の発達により、外部刺激に応答する生体分子ロボットの構築が行われている。本研究室では、精密な外部刺激に応答する生体分子ロボットの構築のため、真核細胞膜の膜組成を模倣したリン脂質非対称膜リポソームを構築し、非対称膜であると有利な現象を明らかにしてきた。さらに、リポソーム膜とタンパク質膜の利点を併せ持つ、完全な人工膜である外膜:リン脂質、内膜:両親媒性タンパク質から形成される非対称膜小胞を作製し、外部刺激による小胞の分裂や膜張力変化をタンパク質機能へ変換等について報告する。
15:40-16:00 山西陽子(九州大学大学院工学研究院機械工学部門・教授)「細胞内サイバネティック・アバターの遠隔制御によって見守られる社会の実現」
本発表では2050年までに、体外から専門家や本人が遠隔操作で、体内の状態を安全・安心に把握・改善・向上できる社会の実現を目指し、体内で、生体分子の利用を基盤とする細胞内サイバネティック・アバター(CA)の連携・協調の遠隔操作技術の創出と利活用を目指したムーンショットプロジェクトについて紹介する。ナノメートルスケールの人工や天然の生体分子から構成される細胞内CAを設計することで、マイクロメートルスケールの細胞間相互作用を用いて、細胞レベルで体内を良い状態に保つことができる社会を実現させるための課題等について説明する。
16:00-16:20 五十子敬子(尚美学園大学・名誉教授)
「医薬品・医療機器製品化への法と倫理」
再生医療等安全性の確保等に関する法律(平成25年法律第13号)及び臨床研究法(平成二十九年法律第十六号)が2024年6月14日に一部改正が公表され、1年以内に施行される予定である。改正される両法には核酸等を用いた医療技術が加えられ、附則第2条には細胞分泌物及び胚性生殖細胞(以後 EG細胞)を用いた医療技術について2年をめどに検討する旨が加えられた。両法施行後にそれらが現在の分子ロボットに適用される訳ではないが、生体分子や細胞分泌物の創薬やデバイス作成の先例になって欲しいと考える。本報告では、分子ロボットの治験への道筋について医事法と生命倫理の視点について概観し、以下の点について検討する。
・新規化合物が医薬品・医療機器として認められるまでのプロセス
・薬機法第14条2項4号に、「申請にかかわるものの製造所における製造管理又は品質管理の方法が厚生労働省令で定める基準に適合していると認められないときにはそのものは承認されない。」としている厚生労働省令(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理規則(平成11年厚生労働省令第16号)[以後GMP省令]」について
・医薬品の臨床試験に関する省令(以後GCP省令)
16:20-17:00 総合討論
以上